「やらなければ」と思っていた仕事を、いつの間にか忘れていた。
そんな経験はありませんか?
私には、お客さんへ持っていくはずの見積書を作り忘れ、直前になって慌てて準備したことがあります。
単に忙しかったから忘れた、というだけではありません。その見積もり金額に、あまり自信がなかったのです。
「この金額で大丈夫だろうか」「高いと思われないだろうか」「そもそも、この仕事は受注しなくてもいいかもしれない」
今振り返ると、仕事をするうえで考えてはいけないようなことまで考えていました(笑)。
金額に自信がないから、見積書を作るのが嫌になる。嫌だから後回しにする。後回しにしているうちに、仕事そのものが意識から外れてしまう。そして、お客さんに持っていく直前になって思い出し、慌てて作ることになりました。
この経験から私が学んだのは、先延ばしは時間管理だけの問題ではないということです。
シリーズ:40代の仕事を動かす行動心理学
自信のない仕事ほど、見ないようにしてしまう
私たちは、簡単で気持ちよく終えられる仕事には比較的すぐ取りかかれます。
一方で、正解が分からない仕事、失敗する可能性がある仕事、誰かに評価される仕事は、なかなか始められません。
見積書もそうでした。金額に自信があれば、もっと早く作っていたかもしれません。しかし、自信がなかったため、見積書を開くこと自体が嫌になっていました。
先延ばしに関する研究でも、「その作業を嫌だと感じること」や「自分にできるという感覚の低さ」は、先延ばしと関係する要因として挙げられています。
つまり、嫌な仕事を後回しにしてしまうのは、必ずしも怠けているからではありません。仕事に対する不安や迷いから、一時的に離れようとしている場合もあるのです。
ただし、見ないようにしても仕事はなくなりません。後回しにした分だけ時間がなくなり、さらに自信を持てない状態で判断しなければならなくなります。
「受注しなくてもいい」は本当の判断だったのか
当時の私は、「この仕事は受注しなくてもいいかも」と考えていました。
もちろん、採算が合わない仕事や、自社では対応できない仕事を断ることは必要です。すべての仕事を受注すればよいわけではありません。
しかし、私の場合は冷静に判断した結果ではなく、見積もりを作る不安から逃げるための理由になっていました。
本当に受注しなくてよいのか。それとも、自信がないから避けたくなっているだけなのか。この二つは分けて考えなければいけません。
早めに見積書へ触れれば、過去の金額を確認したり、詳しい人に相談したり、お客さんへ条件を確認したりできます。ところが、締切直前まで動かなければ、相談する時間も確認する時間もなくなります。
自信がない仕事ほど、早く完成させる必要はありません。まず早く触れて、分からない部分を見つけることが大切です。
私が始めたのは、手帳に書くことだった
この経験のあと、私が始めたのは、とても原始的な方法です。
やるべきことを手帳に書く。
それだけです。
私は家に帰ると、仕事のことをすっかり忘れます。仕事と私生活を切り替えられるのは悪いことではありません。しかし、頭の中だけで「明日やろう」と覚えておく方法は、私には合いませんでした。
だから、忘れることを防ごうとするのではなく、忘れても大丈夫なように手帳へ書いておくことにしました。
私は手帳を開く癖があるので手帳を使っていますが、紙である必要はありません。普段からスマートフォンのメモを見る人なら、スマホのメモ帳で十分です。カレンダーやタスク管理アプリの方が使いやすい人もいるでしょう。
大切なのは、便利な道具を選ぶことではありません。
自分が必ず見る場所に書くことです。
使い慣れていないアプリに記録しても、そのアプリを開かなければ忘れてしまいます。新しい管理方法を覚えるより、すでに身についている習慣に仕事を置く方が続けやすいと思います。
管理すると、むしろ時間が自由になる
以前の私は、予定を細かく管理すると窮屈になるような気がしていました。しかし、実際は逆でした。
やるべきことを手帳に書いておけば、ずっと頭の中で覚えておく必要がありません。
- 何か忘れている気がする
- あの仕事はいつまでだっただろう
- 家に帰ってからも考えておかなければ
そんな状態を減らせます。
手帳に書いたら、仕事のことは手帳に預けて帰る。翌朝、手帳を開けば続きを思い出せる。
しっかり管理することは、自分を予定で縛ることではありません。仕事を頭の外へ出して、自分の時間を取り戻すことでもあるのです。
将来やる予定を適切な場面で思い出す力は、心理学で「展望記憶」と呼ばれます。研究では、「いつ、どの状況で行動するか」を具体的に決める方法が、予定した行動を思い出す助けになることが報告されています。
そのため、手帳には仕事の名前だけでなく、最初にすることまで書いておくと動きやすくなります。
「見積書を作る」だけではなく、次のように書きます。
- 明日の朝、過去の見積書を1件開く
- 10時までに原価を確認する
- 金額に迷ったら午前中に上司へ相談する
- 昼食前に見積書の下書きを作る
これなら、翌日に何から始めればよいか迷いません。
嫌な仕事から始めるようにした
私はこの経験から、できるだけ嫌なことから始めるよう意識しています。
嫌な仕事を一日中抱えていると、ほかの仕事をしていても気になります。簡単なメールに返信しても、机を片づけても、「あの仕事をやらなければ」という重さは残ったままです。
反対に、朝のうちに嫌な仕事へ少しでも触れておくと、その後の時間が楽になります。
ただし、朝一番で完成させる必要はありません。
見積書なら、過去の資料を開くだけでもよい。分からない部分に印をつけるだけでもよい。詳しい人へ相談する予定を入れるだけでも構いません。
嫌な仕事を最初に「終わらせる」のではなく、最初に「止まっている状態から動かす」と考えています。
手帳やスマホに書くときの5つの工夫
1.仕事を頼まれたときに書く
あとで書こうと思うと、書くこと自体を忘れます。予定が決まったとき、依頼を受けたとき、仕事を思い出したときに、その場で記録します。
2.締切だけでなく、始める日を書く
提出日だけを書くと、締切まで手帳に現れないことがあります。「9月20日提出」だけでなく、「9月16日に過去資料を確認」と、最初に動く日も書いておきます。
3.最初の作業を小さくする
「見積書を完成させる」では重すぎます。「前回の見積書を開く」「原価を確認する」「分からない点を一つ書く」まで小さくします。
4.自信がない部分をそのまま書く
不安を頭の中だけに置くと、仕事全体が嫌になります。「金額の根拠に自信がない」「納期が分からない」と書けば、次に確認すべきことが見えてきます。
5.翌朝、最初にメモを見る
書くだけでは仕事は動きません。出勤後に手帳やスマホのメモを開き、その日の嫌な仕事を一つ選びます。そして、メールや簡単な仕事を始める前に、5分だけ触れます。
明日は「気になっている仕事」を一つ書く
明日から、完璧なタスク管理を始める必要はありません。
まずは今、少し気になっている仕事を一つだけ思い浮かべてください。そして、普段必ず見る場所に次の3点を書きます。
- 何が気になっているのか
- 最初に何を確認するのか
- いつ始めるのか
たとえば、こうです。
見積金額に自信がない。明日の朝9時に前回の見積書を開き、原価だけ確認する。
これなら、明日の行動が見えます。
手帳でも、スマホのメモでも構いません。重要なのは、覚えておくことではなく、忘れても思い出せる場所を作ることです。
まとめ
嫌な仕事を先延ばししてしまうとき、その裏には不安や自信のなさが隠れていることがあります。だから、自分を「怠け者だ」と責めるだけでは解決しません。
- 気になった仕事は、必ず見る場所に書く
- 締切とは別に、始める日を決める
- 最初の作業を5分でできる大きさにする
- 自信がない部分を言葉にする
- 嫌な仕事ほど、朝のうちに少し触れる
しっかり管理することは、自由をなくすことではありません。
仕事を手帳やスマホのメモに預けることで、頭の中から仕事をいったん下ろせます。家に帰ったら仕事を忘れ、翌朝またメモから始めればよいのです。
明日は、気になっている仕事を一つだけ書いてみてください。その一行が、締切直前の焦りを減らし、自分の時間を取り戻す最初の一歩になるかもしれません。
参考資料
- Steel, P.(2007)The Nature of Procrastination
- Koo, Y. W. ほか(2022)The Effects of Implementation Intentions on Prospective Memory in Young and Older Adults
「40代の仕事を動かす行動心理学」シリーズ
- 第1回:やった方がいいのに動けない40代へ|明日の自分を変える5つの工夫
- 第2回:嫌な仕事ほど先延ばししてしまう40代へ|手帳に預けて頭を自由にする方法(この記事)
- 第3回:失敗が怖くて動けない40代へ|成功より「小さく試す」を選ぶ方法
- 第4回:選択肢が多すぎて動けない40代へ|「楽しい方」を選ぶ5つの工夫
- 第5回:続けられない40代へ|やる気がなくても続く「入口」の作り方

