部下のモチベーションを上げようとして、だいたい空回りしていた話|上司あるある

善意が、空回りする上司 働き方・仕事の悩み
悪気がないからこそ気づきにくい、上司の関わり方を考える

部下の元気がないとき、上司はわりと慌てます。

「何かあった?」「大丈夫?」「気分転換にランチでも行こうか」
悪気は一切ありません。むしろ、心配している。力になりたい。できれば明日には元気になってほしい。上司としては、とてもまっとうな気持ちです。

ただ、僕自身を振り返ると、その“まっとうな気持ち”が、相手には少し重たかったことが何度もありました。励ましたつもりが、話を急がせていた。助けたつもりが、考える余白を取り上げていた。任せたつもりが、途中で回収していた。

上司の善意は、ときどき足が速すぎます。部下がまだ靴ひもを結んでいるのに、「よし、行こう」と先に走り出してしまう感じです。

この記事では、部下のモチベーションを「上げる」ことに一生懸命だった僕が、だいたい空回りしていた話を書きます。上司を責めるためではありません。悪気がないからこそ気づきにくい、上司あるあるを一緒に笑いながら点検するためです。

そもそも、上司は部下のモチベーションを上げられるのか

先に身もふたもないことを言うと、上司が部下のモチベーションを自在に上げるのは、かなり難しいと思っています。

たとえば、昨日恋人と大げんかした人がいます。家族のことで心配がある人もいるでしょう。寝不足の日もあるし、自分ではどうにもできない評価や人間関係に疲れている日もあります。そんな日に上司が朝礼で熱のこもった話をしても、本人の心の中では「すみません、今日はその熱を受信するアンテナが折れています」となっているかもしれません。

もちろん、上司の言葉で救われることはあります。でも、それを毎回狙ってやろうとすると、だんだん“元気にする係”になってしまいます。相手の気持ちを操作しようとすると、こちらも苦しいし、相手も「元気そうにしておかないと心配されるな」と演技を始めます。

上司にできるのは、モチベーションを上げることより、モチベーションを余計に削らないことかもしれません。話せる空気をつくる。失敗してもすぐ人格診断をしない。考える時間を待つ。本人が決めた方向に、必要な支援を置く。そのほうが、長い目で見るとよほど効きます。

上司あるある1:元気がない部下に、急に名言を言う

「若いうちは苦労を買ってでも」
「失敗は成長のチャンスだから」
「仕事なんて、考え方ひとつだよ」

言っていること自体は、間違っていないのです。僕もたぶん、似たようなことを言ったことがあります。言いながら少しだけ“いいこと言った顔”をしていた可能性も否定できません。

でも、部下が困っているのは、人生観を持っていないからではないことが多いです。担当業務の優先順位がわからない。取引先とのやり取りで詰まっている。自分のミスをどう報告しようか迷っている。つまり必要なのは、名言ではなく整理だったりします。

そんなときは、「何に一番引っかかっている?」と聞くほうが役に立ちます。相手が言葉にできないなら、「仕事量の話? 人間関係? それとも自分のやり方が合っているか不安?」と選択肢を置いてもいい。背中を押す前に、まずどこに立っているのかを見たほうがいいのです。

上司あるある2:相談された瞬間、自分の成功談が始まる

部下が「少し相談があって……」と言った瞬間、上司の頭の中には過去の武勇伝が再生されます。

「ああ、それなら俺も若いころにさ」

ここから始まる話は、たいてい長い。しかも話し終えたころには、最初に相談していた部下が何に困っていたのか、少しぼやけています。相談の場だったはずが、いつの間にか上司の回想シーンになっている。映画なら悪くありませんが、面談では困ります。

経験談がいけないわけではありません。ただし順番があります。先に聞く。本人がどう考えているかを確かめる。それから「僕ならこうしたことがある」と短く渡す。経験は答えとして置くより、選択肢として置いたほうが使われやすいです。

特に、部下がすでに自分なりの答えを持っているときは要注意です。多くの場合、本人は何も考えていないのではなく、「これで進んで大丈夫か」を確認したいだけです。そこで上司が大きな正解をかぶせると、本人の小さな決心は見えなくなります。

上司あるある3:「大丈夫?」と聞いて、答えを待てない

「大丈夫?」は便利な言葉です。便利すぎて、つい使います。

ただ、返ってくる答えはだいたい「大丈夫です」です。大丈夫ではない人ほど、大丈夫ですと言います。会議室の入口で急に聞かれたらなおさらです。人はそんなに都合よく、自分の気持ちを三秒で要約できません。

少し具体的に聞くと、会話の入口が変わります。たとえば、「今週、いつもより確認に時間がかかっているように見えたけど、何か詰まっている?」。「昨日の会議のあと、気になっていることがあるように見えたけど、今すぐじゃなくても話せそうなら時間取ろうか」。観察した事実を添えると、相手も“気にかけてもらえている理由”がわかります。

そして、すぐ答えが返ってこなくても待ちます。沈黙が怖くて、こちらから解説を始めない。五秒くらいの沈黙で慌ててしまうのは、上司のほうです。僕も苦手です。沈黙になると、脳内に「何か言え」という小さな部長が現れます。

でも、相手が言葉を探している数十秒は、案外大事です。結論がまとまっていなくてもいい。「まだうまく言えないんですけど」と話し始められるなら、それで十分です。

上司あるある4:任せたのに、心配になって途中で仕事を回収する

任せると言った。でも進みが遅い。品質も少し心配。締切も近い。すると上司は、親切な顔で言います。

「ここは僕がやっておくよ」

もちろん、火が出ている仕事なら必要なこともあります。顧客への影響が大きい、期限が今日、本人が明らかに助けを求めている。そんなときは一緒に火を消すべきです。

ただ、毎回それをやると、部下は「どうせ最後は上司がやる」と学びます。上司は「任せても育たない」と感じる。お互いに悪人はいないのに、育ちにくい仕組みだけが完成します。ちょっと切ない共同制作です。

仕事を回収したくなったら、まず途中の確認を増やすほうが健全です。「どこまで進んだ?」「今、判断に迷っているのはどこ?」「このまま進めるなら、何が足りない?」と聞く。完成品だけを見るのではなく、途中の思考を見る。そうすると、任せることと放置することが別だとわかってきます。

仕事を抱え込みがちな上司ほど、この場面は難しいと思います。僕自身も、手を出したほうが早いと思ってしまうタイプです。そんなときは、今週ひとつ手放す仕事を見つける考え方も役に立つかもしれません。早さだけで測らないことが、チームには必要です。

上司あるある5:「モチベーションが低い」と決めつけてしまう

期限を守れない。反応が薄い。提案が出てこない。そういう姿を見ると、「やる気がないのかな」と考えたくなります。

でも実際は、仕事の前提が曖昧なのかもしれません。何を優先すればいいかわからないのかもしれません。前に提案して却下された記憶が残っているのかもしれません。上司との相性以前に、単純に寝不足かもしれません。人の中身は、外から見るよりずっと混んでいます。

だから、評価の言葉を急いで貼らないほうがいい。「最近、意欲が低いよね」と言われると、本人は意欲の話をする前に、自分を守る必要が出てきます。代わりに「期待している役割と、今の仕事の進め方にズレはない?」と聞く。行動と状況を一緒に見る。そこからなら、話は前に進みやすいです。

同じ出来事でも、上司の見え方と部下の見え方は違う

たとえば、若手のAさんが、取引先への提案書をなかなか出せないとします。上司から見ると、「早く出さないと機会を逃す。まずたたき台を出して、直せばいいのに」と見えます。なので、つい「ここはこう書いて、今日中に送ろう」と答えまで渡したくなります。

一方のAさんは、「前回、数字の根拠が薄いと言われた。今回も同じことを言われたら怖い」「誰に確認すればいいかわからない」「急いで出して先方の信頼を落としたくない」と考えているかもしれません。表面には“遅い”しか出ていなくても、頭の中ではちゃんと仕事をしている。単に、次の一手を一人で決めきれていないだけです。

ここで上司が完成形を渡せば、今日の提案書は早く出るでしょう。でもAさんは、次も同じ場所で止まりやすい。反対に、「根拠の確認と、誰に相談するかで迷っている感じ?」と聞けば、本人の中の絡まりが少しほどけます。「そこです」と言われたら、「じゃあ数字は経理のBさんに確認しよう。構成は一度あなたの案を見せて」と分けて支援できる。

上司が答えを出すか、部下が全部抱えるか。選択肢はその二つではありません。一緒に考えながら、本人が次に一人でも進める状態をつくる。その中間に、管理職の腕の見せどころがあります。

では、上司は何をすればいいのか

ここまで書くと、「じゃあ上司は何も言わず、にこにこ見ていればいいのか」と思うかもしれません。さすがにそれも違います。にこにこしているだけの上司は、たまにいる観葉植物に近づいてしまいます。

上司に必要なのは、答えを先に出すことではなく、部下が答えを出せる場を整えることです。僕が意識しているのは、次のようなことです。

  • 「どうしたいと思っている?」を先に聞く
  • 結論が出ていなくても、話し始めていいと伝える
  • 本人の考えが危ない方向でなければ、細かく上書きしない
  • 支援できる範囲を具体的にする。「その方向なら、関係者への説明は一緒に考えよう」など
  • 緊急性や安全、ハラスメントのように介入が必要な場面は、ためらわず引き受ける

部下との1on1でも同じです。仕事の話だけを急いで聞こうとすると、表面だけで終わることがあります。少し世間話をしたほうが、その人が何に悩んでいるのか見えてくることもある。1on1で仕事以外の話をしたときに本音が出てきた話にも書いたように、関係をつくることは遠回りに見えて、実は仕事の話をしやすくする近道です。

モチベーションは「上げるもの」より、「持っていられるもの」

部下が自分で決めたことには、多少しんどくても粘りが出ます。反対に、上司に言われたからやったことは、うまくいっても「自分でやった」という感覚が残りにくい。次の壁にぶつかったとき、また上司の答えを待つことになります。

だから上司は、部下のやる気を高く掲げる係ではなく、その人が自分のやる気を持っていられるように邪魔なものをどける係でいいのだと思います。少し地味です。でも、地味な仕事ほど、あとから効いてきます。

もちろん、毎回うまく待てるわけではありません。忙しい日には、結論を急ぎたくなる。心配なほど、口を出したくなる。善意は簡単に暴走します。

それでも次に部下から相談されたとき、すぐに答えを言う前に一度だけ止まってみる。「この人は、もう何を考えているだろう」と。その一拍があるだけで、上司の言葉は少し変わります。

部下のモチベーションを上げるのは、たぶん上司だけの仕事ではありません。でも、上司の関わり方次第で、下げずに済む場面は増やせます。まずは“いいことを言おう”とする前に、話を聞くところから。僕も、名言を言いたくなったときほど、口を閉じる練習をしてみようと思います。

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