「何かあったら、いつでも話しかけて」
上司はわりと気軽に言います。僕も言います。部下が困っていたら助けたいし、トラブルが大きくなる前に知りたい。本当にそう思っています。
ただ、その言葉を言っている上司が、眉間にしわを寄せてパソコンをたたき、電話を切った直後に次の電話をかけ、話しかけても「で、結論は?」と返していたらどうでしょう。
部下からしたら、話しかけられるか、です。
これは、上司が冷たいという話ではありません。むしろ忙しくて、責任感があって、目の前の問題を何とかしようとしている人ほど起きやすいと思います。案件の火を消しているうちに、周りから見た自分の火力に気づかなくなる。上司あるあるの、少し切ないところです。
報連相が遅いとき、僕たちはつい「なぜ早く言わなかったの?」と考えます。でも、そもそも“早めに相談する”ことが習慣になっていない人もいます。何をどこまで報告すればよいか分からない人もいる。前に相談して嫌な空気になった記憶があれば、なおさら口は重くなります。
報連相は部下だけの宿題ではありません。話しかけられる空気をつくり、必要なことをこちらから聞き、言っても大丈夫だったという経験を重ねてもらう。そこまで含めて、上司側の仕事だと思っています。
「報連相が遅い」は、上司側の感想かもしれない
ここは少し大事なところです。「報連相が遅い」と感じているのは、たいてい上司側です。スタッフ本人は、遅らせているつもりがないかもしれません。
本人なりに何とかしていた。情報を集めてから相談しようとしていた。お客さんにもう一度確認してから話そうとしていた。あるいは、「このくらいで上司に言ったら怒られるかな」と思っていた。理由は人それぞれです。
もちろん、お客さんとのトラブル、納期に影響する遅れ、安全やコンプライアンスに関わることは、早く共有してもらう必要があります。ただ、遅いと感じたなら、上司が先に聞けばいい話でもあります。「どうなっている?」「困っていることはある?」と声をかける。報連相が来るのを待つだけではなく、上司が取りに行く。管理職は、待ち受けの仕事だけをする役ではないはずです。
何でも報告させればいい、という話でもない
報連相を増やしすぎればよいわけでもありません。小さな判断まで全部上司に確認するようになると、今度は上司のところに仕事が詰まります。部下は自分で決めにくくなり、上司は通知に追われる。報連相の渋滞です。
だから、上司が先に「これは早めに言ってほしい」と境界線を渡しておく必要があります。お客さんから強い不満が出たとき。約束した期限に間に合わなさそうなとき。金額や契約に関わる判断で迷ったとき。このあたりは、一人で抱えず、早めに共有してほしいと具体的に伝える。
反対に、日々の細かい進め方まで全部聞かなくてもよいなら、「ここは自分で進めて大丈夫。迷ったらAとBのどちらで迷っているかだけ教えて」と言っておく。何でも聞いていい、何でも聞くな、ではなく、どこまで自分で決めて、どこから相談するかを一緒に決める。これがあると、部下も動きやすくなります。
忙しい上司ほど、話しかけにくい人になりやすい
忙しい上司は、だいたい悪人ではありません。むしろ逆です。お客さんへの対応、数字の確認、他部署との調整、部下のフォロー。責任感があるから、自分で問題を解決しようとします。
でも、上司がずっと問題解決モードだと、スタッフからは近寄りにくく見えます。何かを相談しても、「今それどころじゃない」と思われそうになる。実際に言われなくても、表情や声の速さ、席の周りの空気で伝わるものがあります。
「いつでも話しかけて」と言いながら、その人の周りの空気が暗い。部下からしたら、話しかけられるか、とツッコミたくなる話です。
上司は忙しくてもいい。でも、忙しそうにしすぎない工夫は必要です。ずっと笑顔でいる必要はありませんし、悩みがゼロであるふりをする必要もない。ただ、部下が声をかけた瞬間だけは、一度手を止めて顔を上げる。それだけでも空気は変わります。
笑顔でいられることは、ありきたりですが強いです。「この人に話しかけたら、まず受け止めてもらえそうだ」と思える。それが心理的安全性の立派な入口になります。難しい言葉を使わなくても、上司の表情ひとつで職場の温度は変わります。
質問攻めにすると、本音はだんだん消えていく
僕自身、昔は質問攻めにしていました。
「いつから分かっていた?」
「誰に確認した?」
「なんでその時点で言わなかった?」
全部、必要な確認ではあります。ただ、最初からこれを続けると、相手は説明をするより防御を始めます。上司が欲しい答えを探し始める。
その結果、いちばん大切な話が出てきません。本当はお客さんがかなり不満そうだった。ほかの仕事との優先順位で迷っていた。前に同じようなことで怒られた記憶があった。そういう情報ほど、質問攻めの場では言いにくいものです。
最初は「今、どうなっている?」くらいでいいと思います。そして、相手が話し終えるまで待つ。少し沈黙があっても、こちらから結論を急がない。沈黙に耐えられず、上司が勝手に補足説明を始めると、面談はあっという間に上司の講演会になります。僕も気をつけます。
トラブルの最初の一言は、「言ってくれてありがとう」
お客さんとのトラブルは、特に隠されやすいものです。怒られるかもしれない。自分の評価が下がるかもしれない。対応を間違えたと思われるかもしれない。だから、自分で何とかしようとして、時間だけが過ぎることがあります。
隠してよいわけではありません。お客さんに影響が出ることは、早く共有してもらう必要があります。だからこそ、報告を受けたときの最初の一言を上司側が決めておくといいと思います。僕なら、まず「言ってくれてありがとう」です。
そのあとに事実を確認し、誰が何をするかを決めればいい。必要なら、本人に改善してもらうこともあるでしょう。でも、最初に「なんで早く言わなかったの」と言われた人は、次も早く言いづらくなります。報告したら怒られるわけではない、早く言えば一緒に対応してもらえる。その経験をしてもらわないと、隠す癖はなかなか抜けません。
話しかけられる上司は、完璧な上司ではない
「常に笑顔で、何でも受け止めて、いつでも時間がある上司」になろうとすると、たぶん誰かが先に倒れます。そんな人はいませんし、無理に作った余裕は長続きしません。
話しかけられる上司は、完璧な人というより、反応が予測できる人です。忙しいときは「今は5分だけなら聞ける」「その件は15時なら落ち着く」と言う。すぐ答えられないなら「確認して今日中に返す」と伝える。話しかけたことを、面倒そうに消さない。
月曜日が憂うつな日もあります。問題が重なって、正直だれとも話したくない日もあります。上司だって人間なので、それ自体は仕方がない。ただ、その日の機嫌を部下が読まなければ相談できない職場にはしない。そこは、上司側が少し意識したいところです。
上司から話しかけるのは、甘やかしではない
「報連相は部下がやるもの」と考える上司もいるかもしれません。たしかに、仕事をする側が状況を伝える責任はあります。ただ、マネジメントする立場なら、スタッフの状態に気づく責任もあります。
普段からこちらから話しかける。小さな雑談をする。いつもより口数が少ない人に気づく。仕事が止まっていそうなら、「困っている?」と聞く。これは監視ではありません。困ったときに言える関係を、先に作っておくことです。
1on1でいきなり仕事の進捗だけを聞くより、少し仕事以外の話をするほうが本音に近づけることがあります。仕事以外の話が本音につながった1on1の話でも書いたように、世間話は仕事と関係なさそうで、実は仕事の相談をしやすくする土台になります。
部下の仕事が遅れたときに、何から確認すればよいかは、責める前に整えるための3つの視点にもまとめています。報連相の仕組みと、仕事の進め方の支援は、切り離さずに考えたほうがうまく回ります。
明日からできる、上司側の小さな報連相
- 朝、一人にだけでも自分から声をかける
- 「進んでる?」ではなく「どこで迷ってる?」と聞く
- トラブル報告には、最初に「言ってくれてありがとう」と返す
- 相談されたら、パソコンから目を離して顔を見る
- 忙しい日は「今は10分後なら話せる」と、話せる時間を具体的に返す
忙しくて、その場で聞けないことはあります。それなら「後で」だけで終わらせず、「15時に10分取ろう」と返す。話しかけた人が、次も声をかけようと思える返事にする。それだけで、上司の“いつでも”は少し本物に近づきます。
報連相が遅い部下を探すより、早めに話せるチームをつくること。上司が少しだけ話しかけやすくなるだけで、部下も、お客さんも、そして上司本人も、あとで慌てる回数が減るかもしれません。
