会議ではほとんど話さない。仕事を最後まで自分で完結させている様子も、正直あまり見えない。なのに、なぜか一番いい椅子に座り、肩書きがつき、給与も高い。
同族会社で働いていると、ときどき出会う光景です。
「その椅子、成果で決まったんでしたっけ。血筋で決まったんでしたっけ」と、心の中で小さくツッコミを入れたことがある人もいるかもしれません。
もちろん、会社には会社の事情があります。創業家が経営に関わること自体が悪いわけではありません。責任を背負い、実際に会社を動かしている人もたくさんいます。
ただ、仕事ぶりへの納得感と関係なく、親族であることだけが強い通行証のように見える場面があるのも事実です。真面目に働くほど、「自分は何を見て頑張ればいいんだろう」と、気持ちが少しずつ削られていきます。
この記事は、同族会社を悪者にする話ではありません。理不尽に見えることがあっても、そこに自分の人生まで預けすぎないための話です。会社を変える前に、まず自分を守る。40代になった今だからこそ、そんな順番で考えてみたいと思います。
腹が立つのは、給与だけの話ではない
不公平に見える役員にイライラするとき、いちばん目に入りやすいのは給与です。
自分は現場でお客さんに頭を下げ、トラブルを片づけ、数字の責任も背負っている。一方で、あの人は楽そうに見えるのに高い給与を受け取っている。これなら腹が立って当然です。
でも、少し落ち着いて考えると、苦しい理由はお金だけではないことがあります。
- 人として尊敬できるわけではないのに、「偉い人」として扱われている
- 自分で仕事を完結できないのに、周りが尻ぬぐいをしている
- 成果よりも関係性が優先されているように見える
- こちらが頑張っても、同じ土俵で評価されない気がする
要するに、「努力と扱われ方がつながっていない」ことに傷つくのだと思います。
人は、多少きつくても、頑張ったことが仕事や評価に返ってくる感覚があれば踏ん張れます。けれど、最初から一部の人だけが別ルートで上へ行けるように見えると、努力の置き場所が分からなくなる。これは甘えではなく、まっとうな反応です。
ただし、その怒りを毎日ずっと握りしめていると、一番先に疲れるのは自分です。相手の給与明細は、残念ながらこちらの胃を守ってはくれません。
会社の理不尽を、自分の敗北にしない
同族会社にいると、会社の中の序列が、そのまま人間の序列のように見える瞬間があります。
役員だから偉い。社長の親戚だから逆らえない。高い給与をもらっているから価値が高い。そんな空気ができると、こちらまで「自分はその下なのか」と思ってしまいます。
でも、役職はあくまでその会社の中で与えられた役割です。人としての価値を測るメーターではありません。
これはきれいごとではなく、かなり実用的な考え方です。会社の看板が外れたとき、残るのは肩書きではなく、何をやってきたか、誰と信頼をつくってきたか、困ったときにどう動けるかです。
お客さんの困りごとを聞いてきた経験。部下や同僚が動きやすいように整えた経験。トラブルが起きたときに逃げずに片づけた経験。そういうものは、社内の人事表にどう書かれていようと、あなたから取り上げられません。
「あの人が役員なのに、自分はここまでか」と比べ始めたら、一度こう言い直してみてください。
「あの人の役職は、あの会社の事情。自分の価値は、自分がこれから選べること」
少し負け惜しみっぽく聞こえるかもしれません。でも、他人の事情に人生の採点を任せないためには、必要な線引きです。
正そうとしすぎると、会社に人生を持っていかれる
不公平を見つけると、「これはおかしい」と正したくなります。真面目な人ほど、数字をそろえ、仕事ぶりを比べ、周りにも分かってもらおうとします。
その姿勢が必要な場面もあります。評価制度に明らかな矛盾がある、業務が特定の人に偏っている、法令や契約に関わる問題がある。そういうときは、感情だけでぶつからず、事実を記録して、信頼できる上司や外部の相談先に確認する価値があります。
ただ、親族が役員であること自体を、現場の一社員が完全に変えるのは難しいことが多いです。相手は仕事の出来不出来だけでなく、会社の所有や家族の関係ともつながっているからです。
ここで大切なのは、「変えられない仕組み」と「自分が変えられる範囲」を分けることです。
毎回の会議で相手の発言を採点し、給与を想像し、ため息をつく。これを続けていると、相手は何も失わないのに、自分だけが仕事から回復できなくなります。理不尽な相手に、自分の休みの日まで居座る権利を渡さなくていいのです。
会社を良くしたい気持ちは大切です。でも、会社を立て直すことと、自分の人生を守ることは別の仕事です。後者を後回しにしないでください。
流されないために、今の会社でできる3つのこと
1.自分の仕事を「持ち出せる経験」に変える
今の会社にいる間も、ただ我慢して時間を過ごす必要はありません。
自分が担当した案件、改善したこと、お客さんから評価されたこと、部下や後輩を育てたこと。月に一度でもいいので、メモに残しておきましょう。数字があればなお良いですが、「何をどう整えたか」という再現できる工夫も立派な実績です。
社内だけの評価があいまいな会社ほど、自分で自分の棚卸しをしておく意味があります。転職すると決めていなくても、経験を言葉にできるようになるだけで、気持ちは少し変わります。
「自分はここでしか通用しないかもしれない」という不安は、情報がないときほど大きくなります。今の仕事を外から説明できる形にすることは、転職のためだけでなく、自分を過小評価しないためにも役立ちます。
2.待遇の話は、感情ではなく役割で交渉する
「あの人より自分の方が働いている」は、本当にそうだとしても、交渉の言葉にすると通りにくいものです。聞く側が身構え、家族の話にすり替わりやすくなるからです。
待遇や役割を見直してほしいなら、比べる相手ではなく、自分が担っている責任を材料にします。
- 売上や利益にどう関わっているか
- 自分しか判断できない仕事は何か
- 部下や取引先への影響範囲はどれくらいか
- 今後どんな役割まで担えるのか
「不公平だから上げてください」より、「この役割と責任を継続して担うために、条件を相談したい」の方が、相手も逃げにくくなります。
もちろん、話し合っても変わらないことはあります。その場合も、交渉が無駄だったわけではありません。会社が何を評価し、何を変える気がないのかが分かるからです。それは次の選択を考えるための、かなり大事な情報になります。
3.「辞める」ではなく、選べる状態をつくる
ストレスがたまると、「もう辞めたい」と思います。それでいいと思います。辞めたいと思うほどの環境なら、その気持ちをなかったことにしない方がいい。
ただ、その日の怒りだけで退職届を書く必要もありません。おすすめは、辞めるか残るかを今すぐ決める前に、選べる状態を増やすことです。
- 求人を眺めて、今の経験がどこで求められているかを見る
- 職務経歴を一度だけ書き出してみる
- 信頼できる人に、社外の働き方を聞いてみる
- 小さく学び直しや副業の準備を始める
これは会社を裏切る行為ではありません。自分の人生のハンドルを、自分の手元に戻す準備です。
40代で転職や自立を考えると、家族や生活のことが頭をよぎります。だから勢いだけで動けないのは自然です。生活を守りながら、まず小さく試す考え方は、失敗が怖くて動けない40代へ|成功より「小さく試す」を選ぶ方法でも書きました。いきなり正解を出さず、情報を増やすところからで十分です。
「残らなくていいかもしれない」と思えたら、それは前進
今の会社に不満があると、「自分が我慢できないだけでは」と考えてしまうことがあります。特に長く勤めた会社ほど、辞める側に問題があるような気がしてしまう。
でも、自分の人生です。毎日ストレスを抱えながら過ごすことが、本当に唯一の正解なのかは、立ち止まって考えていいと思います。
残る選択にも価値があります。仕事内容が好き、人間関係に救われている、待遇や生活とのバランスが取れている。そう思えるなら、今の場所で工夫する意味はあります。
一方で、「自分の力ではどうにもならない理不尽に、毎日気持ちを持っていかれる」と感じるなら、外を見るのも立派な対策です。転職相談を受けることは、辞めると決めることではありません。転職相談を受けてみたいと思ったら|急かされずに話を整理する準備のように、まず話せる場所をつくるだけでも、頭の中はかなり整理されます。
「ここに残るか」を考えるだけだと、選択肢がひとつに見えて苦しくなります。「残る」「別の会社を見る」「いつか自立できるよう準備する」。三つくらいの扉を並べてみると、会社の中の誰かの役職が、以前ほど大きく見えなくなることがあります。
役職ではなく、自分が納得できる働き方を選ぶ
同族会社の理不尽は、たぶん明日になっても急には消えません。よく分からない役員が、急に仕事の鬼になって、こちらの気持ちを理解してくれる可能性も……ゼロではないですが、あまり期待しすぎない方が平和です。
だからこそ、自分がコントロールできるものに力を使いたいと思います。
- 今の会社で持ち出せる経験を積む
- 自分の役割と待遇を、事実で見直す
- 会社の肩書きと自分の価値を切り離す
- 外の選択肢を、静かに増やしておく
役職は、その会社の中だけのものです。人間としての価値が高い証明でも、低い証明でもありません。
自分の価値は、自分で決めていい。他の誰にも、勝手に下げさせなくていい。
それでも腹が立つ日はあります。そんな日は、「今日はあの椅子のことを考えない」と決めて、仕事の外にある楽しいことへ逃げてもいいと思います。自分の人生を、会社の家族会議の脇役にしないために。
