「大丈夫です」と言う人ほど、だいたい大丈夫じゃない。
口に出した瞬間は、本当にそう思っていることもあります。けれど後になってから、じわじわ効いてくる。人に言われた一言や、うまくいかなかった出来事を、頭の中で何度も再生してしまう。40代になると、仕事の責任も生活の役割も増えます。だからこそ「自分のことは後でいいか」が続きやすいのだと思います。
お客さん一人の言葉が、全員の評価に聞こえた日
以前、お客さんから「担当を外してほしい」と言われたことがあります。その場では「大丈夫です」と答えました。大人ですからね。仕事中に床へ崩れ落ちるわけにもいきません。
でも、しばらくは落ち込みました。自分が否定されたような気がしたからです。よく考えると、拒絶されたのはそのお客さん一人です。ほかのお客さんまで同じように思っているわけではない。それでも、気持ちが沈んでいるときは一人分の言葉が全員分に聞こえてしまう。
この「一件の出来事を、自分の全部の評価にする癖」は、真面目に仕事をしてきた人ほど持ちやすい気がします。
誰かの言葉で、あなたの価値は減らない
失敗や人間関係のつまずきがあると、「自分には価値がないのかもしれない」と考えてしまいます。でも、ひとつの相性の悪さや、一度のクレームで、あなたの価値まで変わるわけではありません。
もちろん、振り返るべきことがあれば振り返る。改善できることがあれば改善する。それで十分です。反省会を無期限に開催しなくていいんです。
上司の立場なら、部下が「大丈夫です」と言ったとき、すぐに解決策を渡すより先に、「そう言ってくれてありがとう。あとで気が変わったら、また話して」と言えるといいと思います。逃げ道があるだけで、人は少し呼吸しやすくなります。
本当に苦しいサインは、だいたい小さい
抱え込んでいる人は、派手に助けを求めるとは限りません。言葉の端がいつもと違う。笑っているのに目が笑っていない。急に元気すぎる。そんな小さな違和感で始まることが多いです。
だから、普段から仕事以外の話をしていることが大切になります。いざというときだけ「何でも相談して」と言っても、相談する側には準備が要ります。こちらの顔が曇っていたり、忙しそうな空気を出していたりしたら、なおさらです。
話を聞くときも、質問で相手を追い詰めないこと。こちらが欲しい答えだけを集めると、本当に困っていることは置き去りになります。まずは言葉にしてもらい、少しガスを抜いてもらう。その時間が、回復の近道になることがあります。
愚痴が言えるうちは、まだ余白がある
人によるので断定はできませんが、私の場合は、四六時中仕事のことばかり考えて、普段の生活を楽しめなくなったら黄色信号です。会社の愚痴を言って発散できているうちは、まだ仕事と生活の間に余白がある。
逆に、愚痴すら出てこない、休日も頭が休まらない、好きだったことに手が伸びない。そんな状態が続くなら、根性で乗り切る話ではありません。休む、誰かに話す、仕事の量や役割を見直す。選択肢を増やしていい時期です。
転職を考えるのは、逃げではない
今の職場で少し整えれば働けるのか。それとも、環境そのものが合わなくなっているのか。すぐに答えを出す必要はありません。けれど「辞めるか、耐えるか」だけにしないことは大切です。
仕事を一度手放す考え方は、仕事を抱え込みすぎる40代管理職へ|今週ひとつ手放す仕事の見つけ方でもまとめています。
転職を具体的に考える段階なら、情報を集めるだけでも構いません。40代の転職相談についても、急かされずに今の選択肢を整理したい人向けに用意しています。
「大丈夫です」と言えた日は、それだけで十分頑張っています。ただ、あとから大丈夫ではなくなったら、そのときは誰かに渡していい。一人で抱え込まないことも、働き続ける力のひとつです。
「大丈夫」は、便利すぎる言葉でもある
「大丈夫です」は便利です。会議中でも、電話の向こうでも、家に帰ってからでも使える。使えるからこそ厄介で、つい本音にフタをしたまま一日を終えられてしまいます。
たとえば、朝から予定が詰まっている日に限って、部下からちょっと重めの相談を受ける。お客さんから急ぎの連絡も来る。自分も「大丈夫です」と言いながら、内心では“今日は勘弁してほしいな”と思っている。そんな日、ありますよね。
この言葉自体が悪いわけではありません。問題は、「大丈夫」と言ったあとに、誰にも渡せないまま抱えてしまうことです。真面目な人ほど、言った以上は平気な顔を続けようとします。そこで余計に疲れてしまう。
気にしすぎる日は、事実と想像を一度分けてみる
担当を外してほしいと言われたとき、私はその一言をずいぶん大きく受け取りました。「自分は向いていないのかもしれない」「みんなもそう思っているのかもしれない」と、勝手に登場人物を増やしていったんです。頭の中の会議は、参加者が多いほど大変です。
そんなときは、紙でもスマホでもいいので、事実だけを書き出すと少し落ち着きます。
事実は「お客さん一人から、担当を変えてほしいと言われた」。そこに「私は全員から信頼されていない」という想像を足すと、急に話が重くなります。もちろん、改善点があったなら受け取ればいい。でも、事実以上に自分を裁かなくていい。
40代になると、失敗ひとつで過去のあれこれまで呼び起こされることがあります。「あのときもダメだった」「昔からこうだ」と、記憶の倉庫から不要な段ボールまで運び出してしまう。今日は目の前の一件だけを見ればいい日もあります。
上司は、解決係になりすぎないほうがいい
部下や同僚が元気がなさそうなとき、つい原因を聞きたくなります。「何があったの?」「誰が悪いの?」「で、どうする?」。忙しいほど、こちらは早く結論に着地したくなるんですよね。
ただ、相手がまだ飲み込めていない話を、質問で急かすと余計に話しにくくなります。答えを急ぐと、こちらが欲しい情報だけを回収して、本人が本当に気にしていることは置いていかれがちです。
私は「それはしんどかったですね」「今すぐ答えを出さなくていいですよ」と言って、いったん置くようにしています。立派な言葉を言う必要はありません。むしろ、ちょっと普通の会話ができるほうがいい。「昼は食べました?」くらいから入ったほうが、話せる日もあります。
相談されたときに上司ができるのは、全部を解決することではなく、相手が自分で考え直せる場所を作ることです。背中を押すのは、そのあとでも遅くありません。
笑顔だけでも、職場の空気はかなり変わる
「いつでも話しかけて」と言っているのに、ずっと眉間にしわを寄せている上司。本人は集中しているだけかもしれませんが、部下からすると、まあ話しかけにくいです。看板と店員さんの表情がまったく違う店みたいなものです。
いつもニコニコしていよう、という根性論ではありません。忙しいときに「今は立て込んでいるから、15時なら話せるよ」と返せること。通りすがりに自分から一言声をかけること。相談が来たときに、まず「言ってくれてありがとう」と言うこと。その小さな積み重ねで、隠し事はずいぶん減ります。
特にお客さんとのトラブルは、怒られると思うと隠したくなります。だから最初の反応は大事です。原因の確認は必要でも、最初から責めると、次回から情報が遅くなります。上司としては、問題の早期発見のほうがずっと大切です。
仕事が頭から離れない日は、小さく区切る
帰宅してもずっと仕事の続きをしている。スマホを見ればメールが気になり、風呂に入っても明日の段取りを考えている。これは責任感がある証拠でもありますが、ずっと続くと生活が仕事に飲み込まれてしまいます。
そんな日は「考えないようにする」より、考える時間を小さく区切るほうが現実的です。帰宅途中の10分だけ考える。ノートに気がかりを三つだけ書く。翌朝にやることを一つ決めたら、今日はもう終了にする。完璧な切り替えは無理でも、仕事に持っていかれる量を減らすことはできます。
会社の愚痴を言える相手がいるのも、案外大事です。愚痴は上品ではないと言われがちですが、全部を胸の奥で熟成させるよりは健全です。笑いながら「いや、あれはないでしょ」と言えるうちは、まだ自分の生活に戻る道が残っています。
一人で耐えることを、美談にしない
頑張れる人は、だいたい頑張りすぎます。自分でなんとかできるから、周りも気づきにくい。けれど、抱え込んでから壊れるまで我慢する必要はありません。
仕事を減らす、配置を相談する、休む、転職の情報を見てみる。どれも大げさな決断ではなく、「今のままだと少し苦しい」を認めた先にある選択肢です。
たとえば、仕事の帰り道に「今日の対応、あれでよかったかな」と思い始めることがあります。家に着くまでに答えが出ればいいのですが、だいたい出ません。信号待ちのあいだに考え、スーパーで考え、夕食の味噌汁を前にしても考える。こうなると、もう仕事の反省というより、脳内の定例会議です。
そんなとき、私は「明日、自分がやることは何か」だけを決めるようにしています。謝るのか、確認するのか、誰かに相談するのか。行動が一つ決まれば、考えることまで全部終わらせなくていい。気持ちが追いつくのは、だいたい少し後です。
抱え込む人は、相談することを“相手の時間を奪うこと”のように感じがちです。でも、仕事で関わる以上、問題も感情もゼロにはできません。全部を投げる必要はないけれど、少し持ってもらうことまで悪いことにしなくていいと思います。
逆の立場で考えると、部下や同僚が限界になるまで何も言わずにいたら、こちらも切ないはずです。「もう少し早く言ってくれたら」と思う。だったら自分だけが、早めに言ってはいけない理由もないんですよね。
もちろん、職場によっては言いにくい空気があると思います。その場合は、社内の別部署、昔の同僚、家族、外部の相談先でも構いません。話す相手は、必ずしも直属の上司でなくていい。自分に合う“逃がし口”を一つでも持っておくと、仕事との距離を取り直しやすくなります。
40代は、若い頃のように気合いだけでは乗り切れないぶん、自分の扱い方を覚えていく時期でもあります。無理をしない人になる必要はありません。ただ、無理をしていることに早めに気づける人にはなりたい。そのくらいが、長く仕事を続けるにはちょうどいい気がしています。
ここまで読んで、「でも自分の場合は、どこからが抱え込みすぎなのかわからない」と思った人もいるかもしれません。目安は、立派な基準でなくて大丈夫です。休日に好きなことをしていても仕事のことが割り込んでくる。家族と話しているのに、半分は翌日の段取りを考えている。寝る前にメールを確認して、返さなくていいものまで返してしまう。そんな日が何日も続くなら、少し休み方を変える合図かもしれません。
もちろん、忙しい時期はあります。繁忙期に一時的に余裕がなくなることまで、全部を危険信号にする必要はない。ただ、終わったあとも気持ちが戻ってこないなら、同じやり方で踏ん張り続けないことです。
仕事の量を減らせないなら、優先順位を上司とすり合わせる。人間関係がしんどいなら、席を替えたり担当を変えたりできないか考える。話を大きくしすぎず、小さく手を入れていく。
それでも「この会社にいる限り、ずっと同じだな」と思うなら、転職の情報を見るだけでもいいと思います。明日辞める話ではありません。外に選択肢があるとわかるだけで、今の職場を見る目が少し変わることがあります。残るにしても、移るにしても、自分で選べる状態を作っておくのは悪くありません。
今日は誰かに一言こぼすだけでもいい。大丈夫じゃない日があることまで含めて、普通に働いていけたらいいと思います。
