部下から「少し相談してもいいですか」と声をかけられたとき、上司としてはつい早く答えを出したくなります。
「それならこうしたらいいよ」
「まずはこの人に相談して」
「じゃあ、次はこう動こうか」
忙しい日ほど、結論を渡して会話を早く終えたくなるものです。こちらにも予定があり、部下を困らせたくない気持ちもある。だから、すぐ解決策を言うことが悪いわけではありません。
ただ、管理職になってから思うのは、部下が相談に来た時点で、たいてい本人の中には「どうしたいか」のたたき台があるということです。
まだ言葉にできていない。気持ちが追いついていない。自分の考えで進めていいのか、誰かに確かめたい。そんな状態で、こちらが先に答えを置いてしまうと、その人が自分で考えていた道が見えなくなることがあります。
今回は、すぐ答えを出さずに待つことが、なぜ部下のモチベーションを守るのか。そして、待つことと放置は何が違うのかを、上司側の実感として整理してみます。
相談できるまでには、その人なりの時間がかかっている
人は、自分の中で飲み込めていないことを、すぐには人へ相談できません。
たとえば、担当しているお客さんとの関係がうまくいかない。後輩への伝え方に悩んでいる。今の仕事の進め方に無理がある気がする。本人の中では何度も考えているのに、何が問題なのかがまだはっきりしないことがあります。
そんなときに上司から「じゃあ、こうすればいい」と早く答えを出されると、一見すると助かったように見えます。でも、本人の中には少し消化不良が残ります。
本当に相談したかったことは、別のところにあったかもしれない。自分で言葉にしようとしていた考えも、途中で止まってしまうかもしれない。結果として、上司の答えに従う形になり、「自分で決めた」という手応えが残りにくくなります。
もちろん、部下が答えを求めている場面もあります。制度のこと、手順のこと、緊急時の判断などは、上司が明確に答えるべきです。
でも、働き方、人間関係、仕事の進め方、自分のこれからに関わる相談は、少し種類が違います。答えを渡す前に、その人が何を大事にしているのか、どこで立ち止まっているのかを聞く時間が必要です。
「どうしたいと思っている?」と聞くと、本人の答えが出てくる
相談を受けたとき、私はいきなり解決策を言わないようにしています。まずは話を最後まで聞く。話が一段落したところで、「あなた自身は、どうしたいと思っている?」と聞くことがあります。
すると、最初は「まだ分からなくて」と言っていた人でも、少し間を置いてから、自分の考えを話し始めることがあります。
「本当は、もう一度先方と話してみたいです」
「この仕事自体は続けたいけれど、進め方は変えたいです」
「自分でやってみたいけれど、ここだけ確認してほしいです」
この言葉が出てきたら、上司がやることは大きくありません。方向が危なくないかを確認する。会社やチームのルールから外れていないかを見る。必要なら少しだけ選択肢を足す。そして、「その考えで進めてみよう」と背中を押す。
それだけで、部下の行動は「上司に言われたからやる」から、「自分で考えて決めたことをやる」に変わります。
同じ行動でも、本人が持つ感覚はかなり違います。うまくいかなかったときも、ただ上司のせいにするのではなく、「次はどうしよう」と自分の経験として振り返りやすくなる。うまくいったときには、「自分でやれた」という自信が残ります。
急いで答えるほど、会話が中途半端になりやすい
上司側にも事情があります。会議の前、締切の直前、メールがたまっている夕方。部下が話しかけてきても、頭の半分では次の予定を考えてしまうことがあります。
そんなときに聞く話は、どうしても途中でまとめに入りがちです。「つまりこういうことだよね」「じゃあ、こうしよう」と、自分が理解しやすい形へ急いでしまう。
でも、本人の話がまだまとまっていない段階なら、こちらの答えも中途半端になりやすいのです。見えているのは表面だけで、本人が本当に困っている理由や、やってみたいことまでは聞けていないかもしれません。
たとえば「仕事を任せてもらえない」という相談があったとします。上司がすぐに「じゃあ次の案件を任せるよ」と返せば、その場では解決したように見えます。
けれど本当は、仕事量が増えて不安だったのかもしれない。今の担当で感じている孤独の話だったかもしれない。評価されていないことへの不満だったかもしれない。そこを聞かずに仕事だけ渡せば、かえって負担を増やすこともあります。
急いで答えることは、上司として仕事をした気になりやすい。でも、相手のためになったかどうかは別です。少し待って話を聞くほうが、結果として余計なやり直しを減らせることがあります。
会話が止まったとき、すぐ埋めなくていい
部下が話している途中で黙ってしまうと、上司はつい助け舟を出したくなります。「つまり、こういうこと?」「だったらこうすれば?」と空白を埋めたくなる。
でも、その沈黙は困っているだけとは限りません。言葉を選んでいる。自分の気持ちを確かめている。上司にどこまで言っていいかを測っている。本人の中では、ちゃんと考える時間になっている場合があります。
私は、すぐには言葉を足さずに少し待つようにしています。どうしても話しにくそうなら、「うまくまとまってなくても大丈夫だよ」「結論がなくても聞くよ」とだけ伝える。その一言があると、相手は話し始めやすくなります。
上司が沈黙に耐えられないと、部下は上司が欲しそうな答えを急いで探すようになります。本音よりも、会話を終えるための答えになる。そうなると、せっかくの相談の時間がもったいないです。
上司が聞くべきなのは「正解」より、本人が何を大事にしているか
同じ問題でも、本人が何を守りたいのかで答えは変わります。
たとえば、異動したいと言う部下がいたとします。新しい仕事に挑戦したいのか。今の人間関係から離れたいのか。将来のために経験を増やしたいのか。それとも、今の業務量が限界なのか。理由を急いで一つに決めつけると、上司は的外れな励ましをしてしまいます。
「今の部署でも頑張ればいい」と言われて苦しくなる人もいますし、「異動を希望していいんだ」と言われて安心する人もいます。だから、上司の経験だけを先に渡すよりも、本人が何を大事にしているのかを聞いたほうが、次の一歩を一緒に考えやすくなります。
管理職は、部下の代わりに人生を決める役ではありません。会社の事情と本人の思いの間に立ち、本人が納得して選べる選択肢を増やす役です。そのためにも、最初の数分を急がないことには意味があります。
待つことは、何もしないことではない
ここは誤解されやすいところです。待つことは、部下がいつか話しかけてくるまで何もしないことではありません。
「報連相は部下がするもの」と考えている上司もいます。もちろん、部下が自分から報告や相談をする意識は大切です。ただ、相談しやすい空気をつくることまで部下任せにすると、話せる人だけが話し、話しにくい人は抱え込んでしまいます。
私は、報連相は上司側の責任でもあると思っています。
忙しそうにしていないか。話しかけるとすぐ結論や説教が返ってくる人になっていないか。失敗を報告したときに、先に責める空気を出していないか。上司が出している雰囲気は、本人が思っている以上に部下へ伝わります。
部下が言葉を探しているようなら、こちらから「最近どう?」と話しかける。急ぎでなさそうなら、「今じゃなくてもいいから、時間が取れるときに聞かせて」と伝える。会議のあとに少し歩きながら話す。形式ばった1on1だけが、話を聞く場ではありません。
大切なのは、話を始めるきっかけを上司側が渡すことです。相談の中身までコントロールする必要はありません。「話しても大丈夫」という入口を、何度でも置いておく。その積み重ねが、いざというときの報連相につながります。
背中を押すときは、本人の言葉を返してあげる
部下が自分の考えを話せるようになったら、上司は何を言えばいいのでしょう。
立派な名言を言う必要はありません。むしろ、本人が話した言葉を、そのまま整理して返すだけでも十分です。
「あなたは、まず先方と直接話してみたいんだね」
「今のやり方を全部変えるより、ここだけ直したいんだね」
「やってみたい気持ちはあるけれど、失敗したときが不安なんだね」
自分の言葉を受け止めてもらえると、人は少し落ち着きます。そして、「じゃあ、こうしてみようかな」と自分で次の一歩を言いやすくなります。
そのうえで、上司として確認すべきことは確認します。予算や期限に無理はないか。関係者へ共有が必要ではないか。本人だけで抱え込むことにならないか。必要なら、「その方向でいいと思う。ただ、この点だけは一緒に確認しよう」と添えればいい。
上司は部下の人生の答えを出す人ではありません。本人が自分で決めて動けるように、危ないところだけ支える人でいいのだと思います。
待たずに判断すべき場面もある
もちろん、いつでもゆっくり待てばよいわけではありません。
人の安全に関わること、ハラスメント、法令や情報管理に関する問題、大きな損失につながりそうな判断、顧客への影響がすでに広がっているトラブル。こうした場面では、上司が早く状況を整理し、必要な人へつなぎ、判断する責任があります。
また、部下が明らかに疲れ切っていて、自分で言葉を探す余裕がないときもあります。その場合は「どうしたい?」とだけ投げず、休むこと、業務を減らすこと、専門の窓口や人事へ相談することなど、具体的な選択肢を上司から出す必要があります。
待つことは万能の正解ではありません。相手の状態と、問題の緊急度を見ながら使い分けることが大切です。
上司自身にも「待つ時間」が必要になる
部下の相談を聞くと、上司もすぐには答えが出ないことがあります。管理職だって、何でも分かっているわけではありません。
そんなときは、無理にその場で結論を出さなくて大丈夫です。「少し考えさせて」「確認してから、明日もう一度話そう」と言ってもいい。
すぐ答えないことを、頼りなさだと思う必要はありません。あいまいな答えで部下を動かしてしまうより、きちんと考えて返すほうが誠実です。上司が自分で考える時間を大事にしている姿は、部下にとっても「急いで答えを出さなくていいんだ」という安心につながります。
管理職が一人で抱え込みすぎると、部下の話を落ち着いて聞く余白もなくなります。仕事を手放すことに悩んでいる方は、仕事を抱え込みすぎる40代管理職へ|今週ひとつ手放す仕事の見つけ方もあわせて読んでみてください。
まとめ|待てる上司は、答えを持っていない上司ではない
待てる上司は、何も言わない上司ではありません。
相手が自分の言葉を探す時間を、先に渡せる上司です。部下が自分で考えて決めた方向が大きく外れていないかを確認し、必要なときにだけ支え、最後に背中を押す。その余白があるから、部下は「自分でやってみよう」と思えます。
すぐに正しい答えを出すことより、相談できる空気をつくること。報連相を部下だけの責任にせず、上司側も入口をつくること。そうやって少しずつ信頼がたまると、仕事の話だけでは出てこなかった本音も聞けるようになります。
仕事以外の話から、部下の本音を聞ける関係をつくるヒントは、40代管理職の1on1で大切だったこと|仕事以外の話が本音につながるにもまとめています。
明日、部下から相談を受けたときは、答えを急ぐ前に一度だけ聞いてみてください。「あなた自身は、どうしたいと思っている?」と。その一言が、相手のモチベーションを守ることがあります。

